映画についての雑感

最新作から、懐かしい80, 90, 00年代の映画の思い出や、その他、海外アニメや小説、ゲーム、音楽などの雑多で様々な芸術作品について

川上未映子『あこがれ』(新潮社文庫) 感想

元々、川上未映子さんの小説は『乳と卵』しか読んだことなかったんですが、音読したくなるような流麗な文章と、曖昧だけど的を射てる情感描写が結構好きで印象に残ってました。先日、全くの偶然から同著者の『マリーの愛の証明』をAmazonのPrime会員無料で読んで非常に面白かったので、彼女の小説をもっと読みたくなり、本書を買ってみました。


この記事では本書の面白さと感想を、ネタバレは無しで軽ーく書いておこうと思います。読書の参考になれば幸いです。

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あらすじ

新潮社公式HPより引用します。

www.shinchosha.co.jp

麦彦とヘガティー、思春期直前の二人が、脆くはかない殻のようなイノセンスを抱えて全力で走り抜ける。この不条理に満ちた世界を――。サンドイッチ売り場の奇妙な女性、まだ見ぬ家族……さまざまな〈あこがれ〉の対象を持ちながら必死で生きる少年少女のぎりぎりのユートピアを繊細かつ強靭無比な筆力で描き尽くす感動作。

受賞 : 第1回 渡辺淳一文学賞

感想


まず本書の簡単な紹介をさせて頂くと、仲の良い小学生の男の子と女の子を主人公に、憧れと形容するような、ある出来事を軸に、彼、彼女らの日常を切り取った不思議なテイストの小説です。設定はジュブナイルものですが、文学作家らしく、所謂 "瑞々しい感じの美化されたジュブナイル" ではありません。とても鋭い視点で描かれています。


感想としては、まず小学生の思考や会話劇がとてもリアルで、面白いんです。自分が小学生じゃないんで本当のところリアルかは分からないはずですが、記憶の中の小学生の思考を思い起こさせる描写の連続になってて、アホな同級生に呆れたり、理不尽な同級生からの要求に困ったり、そういうニュアンスの表現がうまくて、とても身近なレベルに感じられます。懐かしくて、それ以上にリアルな感覚を思い出させてくれます。


それにただリアルって訳じゃなくて、文章の端々に一々オチがつくような、なんだか妙なユーモアがあり、単に可笑しいし、とても洒落っ気があります。小学生とその家族の行動と環境のあるあるを少し冷めた目線で見ている感じ。なんだか、今の自分の感じた範囲の言葉で恐縮なんですが映画監督のソフィア•コッポラの雰囲気にも近い感じを受けました。そういう演出的な部分の面白さでとても読み易く、あっという間に読めます。改めて、ユーモアって本当大事だなぁって感じました。


そして勿論、読み易いだけではなくて、作者が描き出そうとしているもの、2人の考えたことや会話、行動を通して表現したいものが、優しさと厳しさの入り混じった独特の立ち位置で表されてます。ちょっと変わった2人の家族や、周囲の人との関係や、自分と他者との付き合い方などを、曖昧模糊とした心の動き、繊細な心情の変化が描かれていて、大きな経験と些細な日常が同じ重力で2人の身体を引っ張っていて、それに抗うというか慣れるというか、そんな感じで生きていく様子を、成長というようなステレオタイプではなく、経験して変わったり変わらなかったりしたという風になんとなく描いている感じでした。とんでもなく残酷な出来事が起こったりとかはしないんですが、描かれた出来事によって彼、彼女は間違いなく影響を受けていることを感じさせます。曖昧で申し訳ないですが、これはこうだ!みたいな物語ではない、そこが魅力です。


↓2020年のコロナ禍についてのエッセイ『花がより美しく見える』
こちらも過去から現代に続く日本社会の”雰囲気”というような物を描写した佳作です。下記サイトで無料公開されていますので、ぜひご一読下さい
web.kawade.co.jp


川上未映子さんの他の小説『夏物語』も読了しました。
ナタリー・ポートマンも読んだそうですね。それを紹介する川上さんのTwitterがユーモア溢れてて笑える。こちらもそのうち何か書いてみたいと思います。

フロントロウで記事化されたみたいです。『乳と卵』となっていますが、『夏物語』の間違いですよ! 英語版タイトルは”Breasts and Eggs”だそうです。


↓マリーの愛の証明、他
プライム会員ならマリーの愛の証明はまだ読める、かも?


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