ジュラシックワールド 新たなる支配者 原作ファンによるネタバレあり感想
公開初日に観に行っちゃいましたよ、『ジュラシックワールド 新たなる支配者』。大胆にもシリーズ完結編を謳う話題作ですね。僕はこのシリーズ、原作小説であるマイクル・クライトン*1の『ジュラシック・パーク』『ロストワールド』の大ファンだったこともあり、大変好きなシリーズであります。実は『ジュラシックワールド』シリーズは映画第1作『ジュラシックパーク』はもちろんながら、原作小説からの引用も多く、クライトンの元ファンとしてはニヤニヤしてしまう場面も多いのです。今回の最新作はどうだったのか、原作小説でのテーマやキャラクターの描かれ方なども踏まえてゆるくパーソナルな感想をネタバレありで語ります。
ジュラシックパークⅢ
僕がジュラシックパークシリーズを初めて劇場で見たのは、かの悪名高い『ジュラシックパークⅢ』でした。ちょうどその頃、原作版のジュラシックパークにハマっていたということで、異常な期待値で見に行った記憶がありますね。その年の夏休み映画は大盛況で、スピルバーグの『AI』、宮崎駿の『千と千尋の神隠し』などなど数々の話題作がやっていましたが、迷わず『ジュラシックパークⅢ』でしたね! 当時、コカコーラのオマケで付いてきたジュラシックパークⅢコラボのミニフィギュアも全種集めたなぁ。映画自体は世間の評価通りの駄作だったのですが、なんというか、自分が好きなユニバース(?)に属しているモノが駄作であるということを、複雑な気持ちで受け入れるあの感覚。心の中では分かっていても、面白かったと思わなきゃいけないような謎の罪悪感、あれを初めて味わった作品としても思い出深いです。
IMAXがおすすめ
で、今回の映画について。まず前提としては、夏休み映画として楽しめました。IMAXと通常の劇場で2回見てしまったんですが、断然IMAXがおすすめですね。大画面を恐竜が静かに横切っていくシーンだとかの迫力は、そこだけで何度か見たくなる程の魅力があります。監督のコリン・トレヴォロウが前に手がけた『ジュラシックワールド』第1作同様、画面の情報量がやたら多いシーンも所々あって、スクリーンの手前と奥でそれぞれ何か起こっていると言う面白さも健在でした。具体的にはマルタ島での酒場のシーンやラプトルとのチェイスシーンですね。あそこはとっても楽しかったです。トレヴォロウ監督はスターウォーズ EP9の監督になる筈だったんですが、もしトレヴォロウ版スターウォーズが実現していたらきっとこんな感じだったんだろうなー、と思いましたね。あの格好いいケイラと言う運び屋の女性のキャラとかも、最近のスターウォーズっぽい。
恐竜について
恐竜に関しては、ギガノトサウルスと巨大な翼竜ケツァルコアトラス、そしてヴェロキラプトルのブルーがあまりに出番が少なくてガッカリしましたが、あの爪が長い謎めいた恐竜(テリジノサウルスと言う、恐竜界では有名な奴らしい)と、途中、オーウェンとケイラを氷原で襲う謎の羽毛ラプトル(ピロラプトル)が今回のMVPでしょう*2。2頭ともどういう恐竜なのか説明もなく、突然ヌッと出てくる。刺激的なビジュアルも相まって、その登場シーンのなんか変な奴がいる感じは、何とも言えない不気味さがあって映画的なショットとしても良かった。最後にテリジノサウルスがもう一回しゃしゃり出て来るのは、意味不明すぎて笑っちゃったけど。
ただ、やっぱりここは思うところでもあるのですが、『ワールド』1と2であれほどヴェロキラプトルのブルーをキャラ立てしたんだから、正直『ワールド』シリーズはブルーの映画だと思ってました。なので今回ブルーがカメオ出演的な扱いなのは残念でしたね。予告でブルーの子供ベータが登場することを見せていただけに、今回もブルーには新しいストーリーラインが用意されているのかと期待しちゃってましたね。物語の盛り上げ役としてブルーが子供や主人公たちを守って殺されたら嫌だなぁ・・・とかひっそりと予想していたのですが、まさかこんなに登場しないなんて。多分ここ、全世界のファンのガッカリポイントですね。作り手の中に「反ブルー派」でもいるんですかね、恐竜をキャラ化するのはダメだ! 的な。恐竜ホラーとしてのシリーズの趣旨を考えると一理ありますけど。
T-REXとギガノトサウルス
まぁあと、T-REXの扱いも、ちょっと酷い。『ジュラシックワールド』第1作は、前述の失敗に終わった『ジュラシックパークⅢ』で本当に酷い仕打ちを受けていたT-REXを復権させたと言う意味で素晴らしい映画だったんです。ところが本作は、また『パークⅢ』と同じ過ちを犯している。一応最後にフォローされますけど、中盤でギガノトサウルスに威嚇されてク〜ンって感じに去っていくT-REXの姿は切なかった。そういう風にギガノトサウルスをフィーチャーしなくても良いのに。
そのギガノトサウルスについて。なんか今回トレヴォロウ監督がインタビューでドヤりながら「遺伝子組み換え恐竜じゃない、本当の先史時代の恐竜を描くんや。すごい奴がいたんや」みたいなこと言ってたんですが、ギガノトサウルスと言えば、かつて一世を風靡したカプコンのPSゲーム『ディノクライシス2』のヴィランのイメージが自分としては強いです。別に有名な恐竜でもないし、実際に強い肉食恐竜でもないらしいので、元ネタ実はディノクライシスだったりして、と思っちゃいました。ギガノトサウルスが窓を突き破って顔を突き出すシーンも、なんかディノクライシスの第1作目でティラノサウルスが窓を突き破って襲ってくるジャンプスケアのシーンに似てる、気がする。『ワールド』シリーズは何かのオマージュ満載だからそう感じたのかな。
原作版ジュラシックパーク
と言うのもコリントレボロウ監督のジュラシック・ワールドシリーズは、有名な話かと思いますがオリジナルのパークシリーズのオマージュが盛り沢山なんですよね。第1作は『ジュラシックパーク』第1作を意図的にコピーした絵作りが全編通して描かれるし、ストーリーラインも映画ジュラシックパーク、そして原作のマイクル・クライトンの小説すら引用している。『ワールド』全編通して登場する遺伝学者のヘンリー・ウー博士は、スピルバーグの映画版では役名すらあるか怪しいパークのスタッフ然としたキャラクターをB・D・ウォンが演じていましたが、実はこのキャラクターは原作小説では主要な登場人物の1人です。『ワールド』第1作でウー博士が遺伝子組み替え恐竜と、従来の恐竜達になんの違いがあるのだ? 遺伝子操作によって生み出されている時点で既に人の手が入っている、不自然なものであることに変わりはない。と訴えるシーンがありますが、これは原作で創業者のジョン・ハモンドにウーが突っかかるシーンなんですよ。そういえば今回の第3作でも原作版の悪役であるルイス・ドジスン(映画版ではウー同様にちょい役)がわざわざ出てくるしね。*3
原作版のジュラシックパークはスピルバーグの映画版とどう違うのかというと、大まかなストーリーラインは同じですが、作品のテイストがかなり異なります。映画は基本的に明るいファミリー向けのアクションムービーですけど、原作はグロテスクで薄気味悪いホラーSFといった感じです。1990年の小説ですが、当時の一般的な恐竜のイメージーー愚鈍で巨大な爬虫類の怪獣ーーを逆手に取って、今ではすっかりお馴染みになった、知的で、素早く、小型で、獰猛という、人類が遭遇したことのない未知の生物ーー現代の生態系の外から来た生物とのファーストコンタクトといった趣きの内容になってます。興味湧いてきませんか?
また恐竜と人間の戦いについても、クマやトラなどの野生動物による実際の食害事件を参照しているのだろう、やたら惨くて生々しい被害者の描写に、動物としての人間の弱さを痛感させられる。容赦なく登場人物達が殺されていく。ただの暴力描写というだけではなく、生命をコントロールできるというのは人間の奢りだ、というテーマと重ねられている、ような気もしなくもない(あくまでエンタメ小説ですけど)。
個人的には、スピルバーグの映画版『ジュラシックパーク』は、原作のダークな要素を取り除いて楽しい夏の恐竜映画にしたことは大成功だったなと思う反面、原作後半で数学者のマルカム博士がうわ言のように繰り返す文明批判、科学批判、地球や生命の話のくだり、そしてパーク創業者ハモンドの「ウォルト・ディズニーの闇の姿」と原作者自ら説明する*4キャラクターは、好きな箇所だっただけに描かれなかったのは残念でもありました。
オリジナルキャストはどうだった?
その点、『ジュラシックワールド』シリーズはオリジナルの『パーク』シリーズよりも原作的なところがあり、映画第1作でマルカム博士が最もマルカム博士らしかった名台詞”Life finds a way”「生命は道を見つけ出す」をフィーチャーしたりしていたので、今回マルカムやグラント、サトラー博士が再登場すると言う設定に深読みしてました。・・・が、結果的には楽しい同窓会的な出演でしたね。マルカムを演じるジェフ・ゴールドブラムは好きな俳優だし、今回も良い雰囲気だったけれど、原作版の批判的で頑固なマルカムと言うより、まんまジェフ・ゴールドブラムなラテンな雰囲気でしたね。でも、トレヴォロウなら、マルカムにはもう一回大怪我してもらって原作版のようにモルヒネ打ちながら朦朧として、ゴールドブラムにもう一回胸はだけてもらって、そんな中でカオスだとか人類の進化だとか意味不明だけど哲学的な話をするシーン入れて欲しかったなぁ〜〜。戸田奈津子さんの訳の問題*5もあるのかもしれないけど、チャラいだけであまり頭良さそうな人物に見えないんだよな・・・。
グラント、サトラー博士に関しては、2人が再会するシーンがとにかく良かった。グラント役のサム・ニールがとてもシャイな演技をしていて、それが長年自分の世界で孤独に生きていたグラントのキャラクターととっても合っていた。欲を言えば、もっとグラントが恐竜を愛していることが伝わるシーンも欲しかったな。とは言え、この2人が出てくるシーンは全体的に懐かしさ要素も相まってとても生き生きしているように感じた。残念なのはイナゴ関係のシーンが多いというところですけどね。ローラ・ダーンとゴールドブラムの掛け合いも良かった。
まとめ
まとめると、夏休み映画として十分楽しめるし、ぜひ大画面で見て恐竜を感じて欲しい大作映画。だけどジュラシックワールド、ジュラシックパークの最終作として高まった期待値に対しては、なかなか答えることができていない要素もあり、残念に感じる。とは言えそう言った部分も含めて色々思い出が蘇ることもあり、単純にオリジナルキャストの再演は嬉しいし、見て損はない映画でした。ぜひ今後もシリーズを続けて欲しいですね。できればブルーのストーリーを語って欲しいです。
*1:一般的にはマイケルだと思うけど、邦訳元である早川書房に敬意を表して
*2:次点で洞窟に出てくる背びれトカゲみたいな奴と大活躍してたディロフォサウルスかな
*3:ちなみにドジスンのキャラは全然違ったので、ただの名義貸しみたいな感じでちょっとガッカリでしたが。まあ元々どうでもいい人物なんで良いですが
*4:ジュラシックパーク DVD特典のメイキングドキュメンタリーより。このドキュメンタリーは名作ですよ
*5:あくまで個人的な感想だけれども、戸田さんの訳は人物のやり取りだとかは簡潔かつ自然体で良い翻訳と感じる一方、SF的な科学用語、専門用語だとか、原作モノにありがちな引用だとかは訳がニュアンス訳過ぎてわかりづらい感がある。かつて一部の映画評論家とかが吹聴したような戸田さんの翻訳を全否定するような意見には賛成できませんが