映画についての雑感

最新作から、懐かしい80, 90, 00年代の映画の思い出や、その他、海外アニメや小説、ゲーム、音楽などの雑多で様々な芸術作品について

クイーンズ・ギャンビット : 破滅的な天才物語の新しい形

天才的チェスプレーヤーであるベス・ハーモンの半生を描くNetflixオリジナルドラマ。原作はウォルター・デヴィスによる”The Queen’s Gambit (1983, ウォルター・テヴィス/著 、小澤身和子/訳, 新潮社)”。配信開始と同時に世界各国のNetflixで上位に入り続け、世界63カ国でランキング1位を記録した大ヒット作品。日本でもここ最近デイリーランキングの上位に入っており、人気が出てきています。

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クイーンズ・ギャンビット プロモーション用アートワーク
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2020年に観て良かった映画 ベスト5

大変な年になった2020年、今年は劇場で映画を見る機会は殆どなくなってしまいました。実際多くの公開予定作品が延期されてしまいましたし、”ムーラン”などのディズニー作品は配信でのリリースという、映画業界の行く末を左右するような転換点を迎えた年でもありましたね。僕個人としても今年は劇場で映画を見なかった分、NetflixAmazonプライムなどの配信サービスを利用する機会が確実に増えた感触があります。

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テネット(2020)、そしてノーランへの想い

僕はクリストファー・ノーランを尊敬しています。だからこそ、今年公開された”テネット”には違和感や不満を通り越して、軽く怒りすら覚えている。

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©2020 Warner Bros. All Rights Reserved

本作の監督クリストファー・ノーランは、28歳の時に仲間と自主制作映画として”フォロウィング (1998)”を週末を利用して製作し、興行的な成功を収め”メメント(2000)”でメジャーデビューし批評的、興行的な大成功を収めました。己の作品一つ —それも大衆迎合的な内容ではなく、彼個人に由来する極めて先鋭的な思想性や芸術性の高い作品 — それを頼りに世の中へ出て行き、価値を示したのです。彼の生き方と社会的な成功に、僕は芸術はまだ過去のものではない、価値ある作品は今でも人々の心を動かすことができるんだと、明るい希望を感じたものでした。


芸術は多くの人に評価される必要はない(他者の承認を必要としない)ものですが、同時に他者の心を動かすものでもあって欲しい、少しでもその作品が描く”真実”が、受け手の考えや生き方に足跡を残すものであって欲しい、と僕は思っているので、クリストファー・ノーランという作家が思い、感じて表現した芸術作品が、一部の人だけではなく多くの人の目に留まり、影響を与え得たと言うことは、それ自体が僕にとっては感動的なことだったのです。


ここまで書いてきて、クリストファー・ノーランの作家性とは一体なんぞや? と感じた方もいるのではないでしょうか。エンタメ作家でしょ? って感じた方も。
それこそが、僕が”テネット”に感じた違和感であり、怒りの原因なのです。クリストファー・ノーラン、あなたの売りは作家性、思想性、芸術性ではなかったのですか?

また、途中で社会学者・宮台真司氏の”テネット”評論を引用し、肯定的意見としてご紹介致します。

※以降の感想にはネタバレがやや含まれます。

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川上未映子『あこがれ』(新潮社文庫) 感想

元々、川上未映子さんの小説は『乳と卵』しか読んだことなかったんですが、音読したくなるような流麗な文章と、曖昧だけど的を射てる情感描写が結構好きで印象に残ってました。先日、全くの偶然から同著者の『マリーの愛の証明』をAmazonのPrime会員無料で読んで非常に面白かったので、彼女の小説をもっと読みたくなり、本書を買ってみました。


この記事では本書の面白さと感想を、ネタバレは無しで軽ーく書いておこうと思います。読書の参考になれば幸いです。

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